一般的に騎手は、背が低いとされていますが、これにはどういう理由があるのでしょうか。
たしかに騎手達の姿を見ていると、身長が160cm前後の人が多く、日本人男性の平均身長はおよそ171cmと言われているので、それと比較しても小さいという感じがしてきます。
近年は武豊騎手をはじめとして、170cmを超える騎手も出現するようになりましたが、それでも他のスポーツ選手に多い、180cm以上の高身長の騎手は、なかなか見当たりません。
では現在の騎手の身長は、理想的な高さは、いったいどのくらいなのでしょうか?
現在の騎手達の身長を見比べながら、そのあたりの事情を探っていきます。
なお一概に騎手というと、中央競馬・地方競馬合わせて相当な人数となることから、ここでは中央競馬所属の騎手に限定して、言及していきます。
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Contents
騎手になるのに身長制限はない
騎手になるにあたって、体重の制限はありますが、身長の制限はありません。
まずはそのあたりの事情をご紹介します。
体重制限はかなり過酷
JRA(日本中央競馬会)競馬学校における騎手養成課程の入学条件には、体重に関する制限が明記されています。
例として、令和5年4月に入学する騎手課程生徒(第42期生)募集要項に記載されていた応募資格のうち、体重に関する事項を抜粋してご紹介しましょう。
年齢区分 | 体重 |
---|---|
平成17年3月31日以前に出生した者 | 48.0キログラム |
平成17年4月1日から平成18年3月31日の間に出生した者 | 47.0キログラム |
平成18年4月1日から平成19年3月31日の間に出生した者 | 46.0キログラム |
平成19年4月1日以降に出生した者 | 45.0キログラム |
競馬において、競走馬にはレースごとに決められる負担重量があり、騎手はそれにしたがって自らのウエイトコントロールをしなければいけません。
中央競馬ではだいたい52kgから58kg、ハンデ戦の場合は60kgで障害レースの場合は63kgとか、多岐にわたっており、それに沿って調整していきます。
したがって騎手は通常、自らの体重を50kg前後にとどめておき、各レースにおいて定められた斤量にする際には、板状の鉛を勝負服に付けたり、靴や鞍に付けて調整するわけです。
競馬学校へ入学する人は、大抵が中学校を卒業したばかりの16歳くらいの男女で、いわば育ち盛りの世代でもあります。
育ち盛りということを考えると、在学中にさらに成長して、身体が大きくなることも予想されますので、競馬学校入学の段階で体重が軽量であることが望ましいわけです。
しかし日本人高校生の平均体重が60kgということを考えると、この体重制限はかなり過酷で、育ち盛りの若者が食べたい物も食べられないのは、精神的にきついものがあります。
そうした艱難辛苦を克服しないと騎手にはなれないということであり、騎手になった後も斤量に沿った体重調整を迫られる以上、乗り越えなければならない「壁」と言えるでしょう。
騎手に身長制限はない
一方で競馬学校の入学資格には、身長に関する制限は明記されていません。
理由は定かではありませんが、現役で騎乗している騎手の中にも、高身長ながら体重を50kg前後に抑えている騎手も多く(後述します)、高身長即体重オーバーではないからでしょう。
なので競馬学校の騎手養成課程においては、身長の制限はありません。
しかし高身長の騎手が減量を試みようとすると、身体のバランスを崩して健康状態にも悪影響を及ぼしかねず、精神的・肉体的に不安定な状況に陥りやすいそうです。
また身長が伸びると、その分だけ骨量が増えて体重にも影響しますので、身長に関する制限がないとはいえ、高くなった分だけ斤量で不利になることがあります。
ほかにも、家族に高身長の人がいたり、自身の骨密度を測定されて、将来の成長度合いで身長が高くなりそうだと判定されると、競馬学校入学試験で落とされる可能性もあるとか。
競馬学校に入学したら、在学中も厳しく自らの体重を管理されることになりますので、やはり身長制限がないとはいえ、小柄で軽量な人のほうが騎手に向いてると言えるでしょう。
背の低い騎手が競馬には有利?
これまでの話の流れからして、背の低い騎手のほうが競馬には有利と考えられそうです。
背が低い分だけ軽量であり、馬にかかる実質的な負担も少ないことから、少なくとも重量級の騎手よりかは有利であると言えるでしょう。
しかし本当に背が低いことだけで、競馬に有利なのでしょうか?
ここでは競馬における、背が高いことと低いことのメリット・デメリットを、双方の視点から言及していきます。
背が高いことのメリット・デメリット
メリット
- 背が高い分だけパワーや馬力があり、馬の制御が容易にできる。
- 手足が長いことで、馬の状態に合わせて柔軟な手綱さばきができる。
メリット
- 背が高いことで、自然と体重が重くなること。
- そのため体重調整に苦労し、騎乗馬の範囲が限られること。
体重の関係で高身長の騎手にはメリットがなさそうな感じもしますが、意外な所にメリットがありました。
背が高いということは、それだけ体重もありますから馬力やパワーも持ち合わせており、自分の10倍近く体重のある競走馬のコントロールが、容易にできるようです。
また手足が長いことで騎乗も柔軟にこなせるようであり、馬のその時々の状況によって、騎乗スタイルを変えることができる点があります。
しかしデメリットとしては、やはり高身長ゆえにその分だけ体重も嵩み、体重調整に苦労することや、ハンデ戦などで軽い斤量の馬に騎乗できない点が挙げられます。
騎手は1頭でも多く騎乗してこそですし、騎乗馬の範囲が限られてレースに参加できないということは、致命的な話であると言えるでしょう。
背が低いことのメリット・デメリット
メリット
- 体重が軽いことで、重量の調整が楽なこと。
- 騎乗できる馬の範囲が広く、ハンデ戦で軽量の馬にも騎乗できる。
デメリット
- 小柄(160cm未満)の騎手の場合、斤量が重いときに、その負担が辛い。
- 高身長の騎手に比べてパワーで劣り、馬の制御に苦労することがある。
背が低いことのメリットといえば、何といっても軽量であるがゆえに、斤量の調整が非常に楽であり、激しい減量などは必要がないことです。
体重のある騎手が、ハンデ戦などで斤量50kg未満の馬に騎乗しなければならない場合、食事はおろか水分さえも摂らず、サウナでひたすら汗を流して減量するとか。
これは精神的にも肉体的にもかなり過酷であり、ひとつ間違えばその騎手の生命にもかかわることで、一般の人には真似できない危険なものといえます。
しかし体重の軽い小柄な騎手は、そうして過酷な減量をする必要がなく、体重調整も比較的楽にこなすことができるようです。
それこそハンデ戦で斤量40kg台の馬に騎乗しなければならない場合でも、それほど苦労せずに体重調整することができるでしょう。
ただし高身長の騎手と比べると、パワーという面では非力であり、騎乗馬が強情な性格だったりすると、操縦に苦労させられるかもしれません。
また斤量の重い馬…それこそハンデ60kg前後の馬に騎乗する場合は、斤量調整で自分の勝負服等に鉛を付けなければならず、その負担がかなり辛そうですね。
このように、背が高かろうとも低かろうとも、それなりにメリットとデメリットがあります。
どちらが有利か?という点については、一長一短かもしれません。
騎手の身長ランキング
それでは実際に騎手の身長を見ていきましょう。
まずは背の高い騎手と低い騎手を、それぞれ5人ずつご紹介します。
その後に、参考として女性騎手達と、現在リーディング争いを展開している有力騎手達の身長を、それぞれご紹介します。
背の高い騎手5選
氏名 | 年齢 | 身長 | 体重 | 免許 | 所属厩舎 |
---|---|---|---|---|---|
松本大輝 | 21 | 176.0 | 46.3 | 平地/障害 | 栗東・森 秀行 |
西谷 誠 | 47 | 174.0 | 56.0 | 障害 | 栗東・中内田充正 |
太宰啓介 | 44 | 172.0 | 52.0 | 平地/障害 | 栗東・フリー |
小牧加矢太 | 27 | 171.4 | 53.0 | 障害 | 栗東・音無秀孝 |
森 一馬 | 30 | 171.0 | 51.0 | 平地/障害 | 栗東・松永昌博 |
かつて騎手の中で一番身長の高かったのは武幸四郎元騎手(現・調教師)であり、騎手としては珍しく177.0cmありました。
2023年3月現在で一番の高身長騎手は、栗東・森秀行厩舎所属の松本大輝(まつもと・ひろき)騎手であり、武幸四郎元騎手に迫る176.0cmとかなりの背の高さです。
現在は減量騎手のため体重を絞っており、身長がある割にはかなりの軽量ですが、この軽量を維持できれば、先々斤量調整で楽になるため、注目株として期待されています。
この中で目立つのは障害専門騎手が2名いることです。
一人は障害界のベテラン・デビューから29年目の西谷誠騎手。
中山大障害3勝、中山グランドジャンプ1勝と障害G1を4勝しており、障害競走における第一人者と言っても過言ではありません。
そんな西谷騎手も、かつては平地の免許も持っていたものの、体重の急激な増加に対応しきれずに、2011(平成23)年に平地免許を返上し、障害専門騎手として地位を確立しました。
もう一人は、障害専門騎手としてデビューした、小牧加矢太(こまき・かやた)騎手。
兵庫公営から中央競馬に移籍し、一世を風靡した小牧太騎手の実子に当たります。
元々は父親に憧れてJRAの騎手になることを志していたものの、急激に体重が増加したことから、一旦騎手の道を諦めて高校に進学します。
しかし2019(平成31・令和元)年にJRAの障害騎手試験の受験資格が緩和され、自身も資格要件に当てはまることから、受験して合格したものです。
現在はJRAの障害専門騎手として、これまで国民体育大会や馬術大会で腕を磨いてきた経験を活かし、活躍を見せています。
背の低い騎手5選
氏名 | 年齢 | 身長 | 体重 | 免許 | 所属厩舎 |
---|---|---|---|---|---|
松若風馬 | 28 | 151.0 | 45.0 | 平地 | 栗東・フリー |
熊沢重文 | 55 | 153.0 | 53.0 | 平地/障害 | 栗東・フリー |
酒井 学 | 43 | 154.0 | 48.0 | 平地 | 栗東・フリー |
田中勝春 | 52 | 154.5 | 51.0 | 平地 | 美浦・フリー |
佐藤翔馬 | 19 | 154.5 | 45.8 | 平地/障害 | 美浦・小桧山 悟 |
今度は背の小さい騎手を見ていきます。
中央競馬で一番小さいのは、身長151.0cmという松若風馬騎手。
体重面も含めて、おそらく中央競馬の騎手の中で最小でしょう。
しかしその騎乗手腕は優れていて、デビュー10年目の中堅どころですが、すでに通算428勝しており、重賞も11勝(うちG1を1勝)するなど、活躍ぶりが目立っております。
体重も軽いことから騎乗馬を選ぶ必要がなく、斤量の軽い馬でも重い馬でも騎乗できるという使い勝手の良さがある騎手です。
ほかには「穴騎手」として名前を轟かせた熊沢重文騎手も、下から2番目に入っています。
1988(昭和63)年の優駿牝馬(オークス。コスモドリーム)や1991(平成3)年有馬記念(ダイユウサク)で、大穴を出したことで知られる名ジョッキーですね。
また、2012(平成24)年の中山大障害をマーベラスカイザーで制しており、過去2人しかいない、平地と障害のG1を制した人物でもあります(他には伊藤竹男、加賀武見元騎手)。
平地・障害合わせて1052勝(重賞33勝でうちG1は4勝)の一流騎手ですが、55歳の現在も障害に乗り続けており、そのチャレンジ精神は衰えを知りません。
あとは2023年度新人の佐藤翔馬騎手。
父親の博紀氏も公営川崎の元騎手です。
その影響からか新人男性騎手の中では一番背が小さいことで知られています(女性も含めると、小林美駒騎手の153.1cmが新人で最小)。
父親のように騎手として大成できるかどうか、注目されそうですね。
女性騎手達の身長
氏名 | 年齢 | 身長 | 体重 | 免許 | 所属厩舎 |
---|---|---|---|---|---|
永島まなみ | 21 | 159.8 | 45.4 | 平地/障害 | 栗東・高橋康之 |
今村聖奈 | 21 | 158.5 | 47.4 | 平地/障害 | 栗東・寺島 良 |
河原田菜々 | 19 | 158.1 | 47.2 | 平地/障害 | 栗東・渡辺薫彦 |
藤田菜七子 | 26 | 157.4 | 45.6 | 平地 | 美浦・根本康広 |
古川奈穂 | 23 | 154.6 | 44.8 | 平地/障害 | 栗東・矢作芳人 |
小林美駒 | 18 | 153.0 | 46.1 | 平地/障害 | 美浦・鈴木伸尋 |
女性騎手は男性騎手と比べて背が小さく、160cmを超えた人はいませんでした。
一番背が高いのは、デビュー3年目の永島まなみ騎手。
父親の太郎氏も公営兵庫の騎手である二世ジョッキーで、スラッとした体格の持ち主でもあることから、パドックなどでは目立った存在に映ります。
昨年新人ながら55勝(中央51勝+地方4勝)をマークし、重賞初騎乗で初制覇を挙げて大ブレイクした今村聖奈騎手は2番目。
昨年は男性騎手を抑えて、堂々の最多勝利新人騎手にも輝き、先々も活躍が期待されますね。
あとは2023年度新人の小林美駒(こばやし・みく)騎手。
2023年度新人騎手の中では一番小さいことで知られていますが、兄弟子が横山武史騎手であり、同騎手の指導を受けながら日々修業に取り組んでいるとか。
数年後、どこまで成長しているのかが楽しみですね。
有力騎手達の身長
氏名 | 年齢 | 身長 | 体重 | 免許 | 所属厩舎 |
---|---|---|---|---|---|
横山和生 | 30 | 167.2 | 52.0 | 平地 | 美浦・フリー |
横山武史 | 25 | 165.0 | 45.3 | 平地/障害 | 美浦・鈴木伸尋 |
C.ルメール | 44 | 163.0 | 53.0 | 平地 | 栗東・フリー |
岩田望来 | 23 | 161.4 | 52.0 | 平地/障害 | 栗東・藤原英昭 |
戸崎圭太 | 43 | 160.8 | 49.7 | 平地 | 美浦・田島俊明 |
川田将雅 | 38 | 159.0 | 51.0 | 平地 | 栗東・フリー |
ここでは2023年3月19日現在の、関東・関西騎手リーディングの1位から3位までの騎手を取り上げてみましたが、身長160cmから165cm前後の人が多いですね。
こうして見てみると、実際に活躍している騎手達の身長はややバラけていますが、それでも極端に高身長・低身長ということはありません。
現在、全国リーディングの1位を走っている川田将雅騎手は身長159.0cmであり、どちらかというと低めの部類に入っています。
とはいえ体重は51.0kgであり、極端に軽量というわけではありません。
また関東リーディングの1位を走っている横山武史騎手にしても、体重は45.3kgと軽量ですが、身長は165.0cmあり、どちらかというと高身長の部類に入ります。
それを思うと、騎手は低身長だから活躍する、高身長だから活躍しないというのは、あまり説得力を持たないのかもしれません。
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まとめ
以上「騎手の身長はどのくらいあるのか?理想的な高さは?」についてご紹介してきました。
今回の記事をまとめると、以下のとおりになりました。
まとめ
- 騎手は背の低いイメージがあるが、背の高い騎手も存在している。
- 騎手になるには体重制限こそあるが、身長の制限はない。
- 高身長の人は体重も増えやすく、騎手になっても体重調整があるので結構厳しい。
- 低身長の人は体重も軽いが、その分パワーが劣り、重い斤量のときに苦労する。
- 理想的な高さはないが、活躍している騎手を見ると160cmから165cmの間と考えられる。
- とはいえ一概に「低身長=活躍する」「高身長=活躍しない」というわけではない。
低身長の騎手、高身長の騎手、ともに長所と短所があることがわかります。
要はその長所を活かしきった騎手が活躍している、ということかもしれません。
もちろんそれ以外に自らの努力や研究も求められますし、身長の問題はあくまで勝てる要因の一つくらいに考えておくのがベターでしょう。
騎手達にはプラスの要因を最大限に活かし、一方でマイナスの要因をうまく乗り越えて、成績向上を目指していただきたいです。