競艇のコース取りについて解説！スタート前の駆け引きが勝負を左右する

競艇は、他の公営競技や陸上競技などとは全く異なる始まり方をしています。
実は競艇はスタートの合図が出る前から既に選手同士の駆け引きが始まっており、スタートの知識を身につけておくと、よりレース観戦を楽しむ事ができます。
本記事では競艇のスタートについて詳しく解説していきます。

競艇はスタートラインに揃った状態でスタートすることが出来ない

競艇は水の上で行われる競技です。
水の上というのは地上と違って常に水平ではありません。

更に競艇では選手がボートに乗ってボートは水上に浮かんでいるだけの状態なので、一定位置で停止する事ができません。
したがって一般的な陸上競技のようにスタートラインに横一列で並び、合図とともに一斉にスタートするというオーソドックスなスタートができないのです。

競艇のスタートは「フライングスタート方式」

競艇のスタートは、「フライングスタート方式」という特殊なスタート方法を採用しています。
レーススタート前からどのような流れで進行していくのでしょうか。

ピットで待機した状態でレース開始を待つ

選手たちはまずピットという場所でボートに乗った状態で合図があるまで待機しています。
そして合図のファンファーレが鳴ったと同時に6艇が一斉にピットから離れ、最初に「小回り防止ブイ」というところを目指します。
ちなみにファンファーレは各競艇場によって異なるので、それぞれの競艇場のファンファーレを聞き比べてみるのも楽しいです。

小回り防止ブイと第2ターンマークを周回

小回り防止ブイに到達したら小回り防止ブイを周回し、第2ターンマークへと進みます。
そして第2ターンマークを周回してスタート位置を目掛けてボートを進めていきます。

スタート位置についてスタートの合図を待つ

最後にスタート位置まで進んだら各選手自由な位置で待機してスタートの合図を待ちます。
スタートの合図が出たら徐々に加速していき、スタートラインに到達した際にちょうど大時計が0秒になるようにスピードを調節しながら更に加速、スタートラインを通過したらそのままレースが開始される、といった流れで競艇のスタートは進行していきます。

ピットアウトからスタート位置につくまでのコース取りは自由

競艇ではピットアウトからスタート位置に着くまで所定の位置で走行しなければならないというルールはありません。
一部「進入固定競走」といって、スタートまでコースを変更することを禁止しているレースがありますが、そのレース以外ならばピットアウトからスタート位置につくまで自由にコースを変更することができます。

競艇は「出走表」通りのスタートになるとは限らない

(引用元：BOAT RACE オフィシャルウェブサイト)

ピットアウトからスタート位置に着くまで自由にコース変更が出来るということは、つまり競艇は「出走表」通りの位置でスタートするとは限らない、ということになります。

極論を言うと「出走表」を見て1号艇にいる選手がピットアウトからスタート位置に到着する間にほかの艇に内側のコースを奪われ、6コースからスタートしてしまうといった事になる場合もあるのです。

選手も1号艇という絶好の位置を奪われまいとして内側に入ってこようとする選手を妨害したりするため、上記の例のようになることはほぼ皆無ではありますが、1号艇の選手が2コースや3コースからのスタートになってしまうということは十分ありえます。

近年は「枠順通り」のスタートになることが多い

しかし近年は「枠順通り」といって、「出走表」の位置のままでスタートすることが多くなっています。

理由に関しては判明していませんが、やはり半ば無理やりインコースを奪うという行動はルール上認められているものの、ファンから見ればレース前に必死にチェックして予想に活用していた「出走表」とはまるで違う枠順になってしまうというのは自分の予想とはレース結果が大幅に変わってしまう可能性が高いため、こういった動きをする選手に対して多くの競艇ファンは否定的です。

もちろん実際にレースに臨む選手にとっても、せっかく有利なコースでスタートできるのに無理やりインコースを奪われてしまうというのは釈然としない気持ちになってしまうことでしょう。

こういったイメージの悪さが「枠なり進入」が増加した要因である気がします。
昨今はSNSが隆盛している世の中であり、世間的に批判を受けるような行動をすると徹底的に叩かれる傾向にあるというのも少なからず影響している事でしょう。

「イン屋」と「アウト屋」の存在

注意してほしいのは、あくまでも「枠順通り」でのスタートになる事が多くなっているというだけで、完全に全てのレースが枠順通りになっているわけではありません。
レースの予想をするうえで注意しなければならないのが「イン屋」と「アウト屋」の存在です。

まずはあまり予想に影響を与えない「アウト屋」について解説していきましょう。
アウト屋とは、あえて不利とされるアウトコースからスタートすることを選ぶ競艇選手たちのことです。

アウト屋は一昔前、「持ちペラ制度」といってプロペラを自由に選手が持ち込みできる時代に活躍していて、大外からトップスピードで豪快に内側の艇を抜き去る光景は非常に派手で、アウト屋の選手は競艇ファンから絶大な人気を誇っています。

しかし持ちペラ制度が廃止となり、プロペラも競艇場が管理するようになると自分の自由にプロペラを整備することができなくなってしまったため、アウト屋の選手は一気に減少、今では絶滅種といっても過言ではないほど人数が減ってしまいました。
現在も活躍するアウト屋選手は「阿波勝哉」選手と「小川晃司」選手の2名だけだと思ってもらって構いません。

次に要注意しなければならない「イン屋」について解説していきます。
アウト屋は自分からアウトコースを選ぶ選手たちのことを差していますから、イン屋は逆に積極的にインコースを狙ってコース取りをする選手たちの事だろうと想像がつくでしょう。

イン屋の選手たちのインコースに対する執着心はかなり高いものがあり、例えばイン屋の選手としてもっとも有名な選手のひとりである「西島義則」選手のコース別進入率を見ると1コース29.1パーセント、2コースが63.6パーセントとこの2コースだけで90パーセント近くを占めています。

もちろん西島選手が優先的に1コースあるいは2コースに配置されるような事はありませんから、これは意識的にインコースへの進入を常に狙っているという何よりの証拠です。

「イン屋」が出走していると「出走表」通りにならない可能性が高い

(引用元：BOAT RACE オフィシャルウェブサイト)

したがって、イン屋選手がレースに出走している場合はその選手がインコースに入ってくるであろうことを想定しつつレース予想をしなければなりません。
つまり「出走表」通りのスタートにならない可能性が非常に高いというわけです。

この事実を知ると、競艇初心者は「イン屋選手が誰かなんて分からないよ」と嘆いてしまうでしょう。
しかしイン屋選手を見抜く簡単な方法がふたつあります。
まずひとつ目は「登録番号」です。

イン屋選手はほぼ全員ベテラン選手なので、登録番号3,000番台後半であればイン屋選手である可能性はまずゼロであり、この選手はイン屋選手ではないと判断できます。
ちなみに西島選手の登録番号は3,024番なので見事にこの法則に当てはまります。

もうひとつは先ほど少し触れた「コース別進入率」です。
イン屋の選手の場合は見事に1コースから3コースに進入率が偏っているので、一発で見抜くことができます。

前付けにはデメリットもある

無理やりインコースに進入するイン屋はメリットばかりだと思ってしまうかもしれませんが、イン屋の戦法にはメリットだけではなくデメリットもあります。
イン屋がインコースに進入しようとすると、当然ながらもともとインコースに居る選手はイン屋の行動を予防しようと動きます。

そのため、イン屋の選手は普通に進入する選手よりもスタート位置から近い場所でのスタートとなってしまうことが多いです。
助走距離が短いとスタートをするタイミングを図る余裕がないのでタイミングを合わせてスタートするのが難しいですし、何より助走距離そのものが短いので十分に加速できないような状態でスタートせざるを得なくなります。

スタート前の待機行動にもルールがある

ピットアウトしてからスタート位置に到着するまでの一連の流れを「待機行動」というのですが、待機行動には細かなルールが定められています。
待機行動についてのルールを確認していくことにしましょう。

ピットアウトから第2ターンマークまで

ピットアウトから「小回り防止ブイ」までは全速力で向かわなければなりません。
これはインコースの選手がスピードをわざと落として待機行動の時間稼ぎをすることを防止するためのルールで、減速した状態で向かった時点で違反とみなされます。

小回りブイを回った状態から舵を切って艇の向きを変えなければならないのですが、舵は2回までしか切ることができず、3回切ると違反です。

第2ターンマークからスタート位置まで

第2ターンマークへ向かう際にはほかの艇とある程度距離を保たなければならないと決められています。
具体的にはボートふたつ分の距離を保つ必要があり、第2ターンマークを周回してからスタート位置に進むまでの間も同じくボートふたつ分の距離を保つ必要があります。

スタート位置でのルール

スタート位置につくまではボートふたつ分でしたが、スタート位置ではそれより広く、ボート3つ分の距離を保たなければなりません。
これは加速すると艇が左右に触れる事による衝突防止のために設けられたルールです。

待機行動違反のペナルティ

待機行動で違反を起こした際には当然いくつかのペナルティが科せられます。
競艇ではルール違反をした場合、「事故点」という点数が加算されます。

この点数は選手の成績を計算する際の減点対象となるので、極力もらいたくない点数ですが、待機行動違反をすると事故点2点が加算されます。
とはいえ、転覆をすると10点加算されますし、フライング又は出遅れの場合は20点も加算されるので、それと比べるとこの減点はかなり軽いものです。

それよりも選手にとって痛いのは「7点の減点」です。
この点数というのは事故点ではなく、予選レースの着順によって加算されていく点数のことを指します。

その点数が7点も差し引かれるわけですから、この減点によって準優勝戦に進めなくなってしまうといった事になる可能性も十分あります。
更に待機行動違反を同一節間に複数回繰り返すと「即日帰郷」といってレース中であっても翌日に帰らなければならないという罰則が言い渡されます。

しかし、これが優勝決定戦になると話が変わってきます。
優勝決定戦が終わればレースは終了なので、減点7点はまったく痛くないですし、待機行動違反の2点減点も優勝決定戦で好成績になれば帳消しにできるでしょう。

さらに複数回待機行動違反をしたことによる「即日帰郷」も、優勝決定戦でレースが終了するのでまったく関係ありません。
そのため、優勝決定戦では待機行動違反を受けることを承知で積極的にインコースを狙う選手もいます。

まとめ

競艇は水面でおこなわれる競技であるため、陸上競技のようにスタートラインで待機して一斉にスタートするといった始め方をすることができません。
そこで競艇では「フライングスタート方式」というスタート方法を採用しています。

具体的な流れは記事の内容を見てもらえば分かりますが、かなり複雑な手順を踏んでスタートをすることが分かります。
競艇初心者には分かりづらいかもしれませんが、逆にスタートを理解すれば競艇をより楽しめることは間違いありません。

ピットアウトからスタート位置に着くまでの間はコース取りを自由におこなえるので、レース前からすでに選手同士の駆け引きがおこなわれているのです。
とはいえ、現在はコース取りの争いはあまり行われず、出走表通りの「枠なり進入」となるケースがほとんどですが、若干名「アウト屋」や「イン屋」という積極的なコース取りをする選手が存在するため、こういった選手が出走している場合は注意しましょう。

ピットアウトからスタート位置に着くまでの一連の流れを待機行動と呼んでいるのですが、待機行動にはいくつかのルールがあり、そのルールに違反すると事故点2点に加え7点減点のペナルティが与えられ、同じ節で複数回待機行動違反をした場合は「即日帰郷」の対象となってしまいます。

予選で待機行動違反を受けるとかなり痛いのですが、優勝決定戦では事故点2点はそれほど大きな痛手ではないですし、7点減点も即日帰郷もまったく意味がなくなることから、優勝決定戦ではむしろ待機行動違反覚悟で積極的にインコースを狙う選手もいるほどです。