競艇を現地で観戦するとボートに取り付けられているモーターの音、そして水上を目にも止まらぬスピードで走り抜ける選手たちの迫力に圧倒されます。
しかし時には思わず血の気が引いてしまうような転覆事故を偶然見かけてしまうと、「競艇というのは怖い競技だな」とも思ってしまうでしょう。
2022年、競艇界では年間2件の死亡事故が発生してしまうという悲しい結果となってしまいました。
2022年競艇は過去最高の売り上げを記録し大きな話題となりましたが、その裏で暗い影を落とすようなこういった事例もあったということを頭の隅にでも入れておいてください。
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目次
競艇選手が高給取りである理由
競艇選手の年収は公式サイトの発表によると約1,700万円と紹介されています。
一般的なサラリーマンの平均年収が直近の発表で443万円となっているので、それと比べると実に4倍近く年収が高いです。
もちろん競艇選手は実力主義であり、トップ選手であるA1選手になると年間1億円稼ぐ選手も居て、そういった選手が平均年収を大きく上昇させていることは事実ですが、一番下のB2級選手でもそれなりの成績を記録していれば600万円ほど稼ぐことが出来るといわれています。
そう考えるとやはり競艇選手は高給取りであるといえるでしょう。
毎年今くらいの時期になるとオートレーサー募集のコマーシャルが放送され、若い競艇ファンのなかには「俺もレーサーを目指してみようかな…」と思う人もなかにはいるかもしれませんが、ボートレーサーは軽い気持ちでなってよい職業ではありません。
冒頭でも少し触れた通り、競艇は時にレース中に命を落としてしまうことがあるほど危険と隣り合わせの競技なのです。
競艇が危険とされる要因
競艇が危険とされる要因を具体的にピックアップすると、以下に説明する4つの項目になります。
競艇のレースではこの4つがどのような状況でも常に襲い掛かってくる可能性があるため、非常に危険な競技となっているのです。
時速80キロ以上のスピード
競艇はボートに乗り、ボートに搭載されているモーターによって進む競技ですが、トップスピードになった際には時速80キロまで出るといわれています。
スピードが早ければ早いほど危険度が増すというのはわざわざここで説明するまでもないかもしれませんが具体的な数字で示すと、時速40キロの自動車がぶつかった時の衝撃というのはビルの2階部分あたりから落下した時の衝撃に等しいといわれているのですが、これが倍の80キロになるとなんと8階建てのビルから落下した時の衝撃とほぼ同等になるとされています。
つまり速度が2倍になると衝撃は単純計算で4倍になってしまうというわけです。
ボートそのものが危険
競艇はそもそも選手たちが乗っているボートそのものが危険です。
競艇で使用されるボートは公平性を保つために全て同じ大きさや重さで設計され、製造されています。
競艇用のボートは全長289.5センチで幅133.6センチ、重さは約70キロです。
この大きな塊が最高時速80キロで走っているわけですから非常に危険であるということが分かるのではないでしょうか。
過去に発生している競艇の死亡事故の大部分が、後続の選手が乗っているボートが衝突してしまったことが一番の要因となっています。
そして何よりもこの大きなボートを時速80キロというスピードで動かす事ができるモーターそのものが落水した選手にとっては恐ろしい凶器となり得るのです。
プロペラは毎分数千回という目にも止まらぬ速度で回転しています。
もし手足を含め、身体のどこかがプロペラに触れたらひとたまりもないでしょう。
全速ターン
競艇が危険とされている理由の3つ目は「全速ターン」というテクニックの存在です。
昔の競艇ではターンを行う場所ではある程度減速して周回するというのが当たり前でした。
しかし諸説ありますが、今村豊選手が真っ先に全速ターンをレースで実践投入し、連戦連勝したことで一気に注目されます。
全速ターンとはターンをする場所でもほぼスピードを落とさずに周回するというテクニックです。
ほかの選手がターン部分で減速するなかで一人だけがほぼスピードを落とさずにターンを周回する技術を持っているのであれば、連戦連勝するのは当たり前だといえるでしょう。
今村選手の大活躍を見て、他の選手たちはきっと戦慄したことでしょう。
そして、「これからは全速ターンをマスターしなければトップには上がれない」となり、他の選手たちも全速ターンをマスター、いつしか全速ターンという技術は競艇選手にとって必須スキルとなり、競艇選手になる前には必ず通うことになる競艇学校でも必須スキルとして勉強するほどです。
しかしターン部分はただでさえ選手たちが密集する部分ですから、この場所をほぼトップスピードでターンするという行為は危険以外のなにものでもありません。
水面で争う競技
当たり前ですが、競艇は水面の上で争う競技です。
競艇以外の競馬、競輪、オートレースは地上で行う競技であり、安定した場所でレースをおこなっていますが、競艇は水面という非常に不安定な場所で戦っている時点で他の公営競技よりもバランスを崩して転覆してしまう可能性が高いことは否めません。
ここまで競艇の危険性について解説しました。
競艇選手は非常に過酷な条件のなかで常に戦っているからこそ、一般社会人を大きく上回る年収を得ることができているのです。
死亡事故の件数がかなり多い
競艇は公営競技のなかでも実は数字上ではもっとも死亡事故が多い競技となってしまっています。
競馬は17件、競輪は7件、オートレースは7件となっていますが、競艇はなんと2023年2月時点で33件の死亡事故が発生していて、数字上でも競艇は非常に危険な競技であるという事が分かります。
2022年は2件の死亡事故が発生してしまった
特に2022年は同じ年に2件の死亡事故が発生してしまいました。
同一年に2件以上の死亡事故が発生していまったのは1977年以降実に45年ぶりの事です。
ここからは202年に発生してしまった死亡事故について深く掘り下げていくことにしましょう。
小林晋選手の事故について
(引用元:東京中日スポーツ)
最初に小林晋選手の死亡事故について、経緯やその後の反応などを検証していきます。
事故事例を詳しく見ていくことで競艇という競技の危険性がより理解できるのではないでしょうか。
小林選手は「銀河系軍団」の一人
まず、小林晋選手についてどういった選手かを簡単に紹介していきます。
小林選手は東京支部所属の選手で、1999年に競艇選手としてデビューしました。
この1999年デビューの選手たちは85期に当たるわけですが、彼らは通称「銀河系軍団」と呼ばれています。
何故この時期にデビューした選手たちが銀河系軍団と呼ばれているのかというと、「A1級選手、特にSGレースを制覇した選手が他の期と比べて多いから」です。
通称同一期の選手の中でSGレースを制覇するような活躍をするのは2名くらいですが、85期には井口佳典、丸岡正典、湯川浩司、田村隆信と4名も存在しており、さらに4名ともSGレースを複数回優勝しています。
そして女性選手として2023年時点で唯一全会場制覇を達成した田口節子選手も同期です。
小林選手は事故時点でB1級であり、最高位もA2級と彼らに比べれば実力は劣っていますが、ホームである江戸川競艇場では予想外の好走をする事が多く、高配当を演出する選手の一人でした。
事故の経緯について
事故が発生したのは2022年1月12日、2022年のボートレースシーズンがスタートした矢先の事故でした。
この日小林選手は多摩川競艇場で開催されていた「BOATBoyCUP静波まつり杯」というレースに出場、事故はこの日の第6レースで発生しています。
小林選手は6号艇でのスタートと不利な状況でしたが、上手く立ち回って4番手につけて1周目を終えます。
3着以内に入るかどうかギリギリの着順であり、攻めようという気概を持っていた事は間違いないでしょう。
そして2周目のバックストレッチに入り、前を行く吉田稔選手を射程圏内に入れ、差し切ろうと接近した瞬間でした。
吉田選手は突如斜行を開始、内から差そうとした小林選手は吉田選手のボートに接触、トップスピードだった事もあってボートそのものがひっくり返るような形で小林選手は落水してしまいます。
それだけならまだ良かったのですが、不運にも後方を走っていた幸田智裕選手の艇か避けきれずに小林選手を轢いてしまったのです。
すぐに病院に搬送されて懸命の治療が施されましたが、その甲斐なく小林選手は殉職してしまいました。
未然に防げる事故だった可能性が高い
実はこのレースの初日には全く逆のシチュエーションが発生していました。
小林選手が前を行き、その後方を吉田選手が追走して差しを狙うという場面があったのです。
この時小林選手は差しを妨害すれば危険な事になると判断して斜行しませんでした。
結果として小林選手は吉田選手に差されてしまい順位を落としました。
この動きを吉田選手は見ていたはずです。
もし小林選手と同じように斜行していなければ、この事故は発生しなかったでしょう。
競艇選手はプロですから、あの場面で斜行すれば危険である事は分かっていたはずです。
つまり、この事故は選手の心掛け次第で未然に防ぐ事ができたということになります。
吉田選手は元々勝つためなら艇をわざとぶつけたりと、レーススタイルの評判はかなり悪い選手だった事もあり、レース映像を見た多くの競艇ファンが吉田選手のこの走りについては否定的な意見を発信しています。
85期は事故で亡くなっている選手が多い
85期は銀河系軍団という華々しい名称がつけられている裏で、実はレース中の事故で亡くなった選手の人数が多く、小林選手の他に2007年には坂谷真史選手が、2004年には中島康孝選手が事故により亡くなっています。
同期が3人も亡くなってしまうというのは当事者からすると非常に辛いでしょうから、もうこれ以上85期からレース中に亡くなってしまう選手が出てこない事を祈るのみです。
もちろん85期だけではなく競艇の死亡事故そのものがゼロになる事が1番望ましいのは言うまでもありません。
中田達也選手の事故について
(引用元:youtube)
続いて中田達也選手の事故について詳しく見ていく事にしましょう。
2022年は年明け早々に小林選手の死亡事故が発生してしまい、競艇ファンほぼ全員がもう今年はこれ以上死亡事故が発生しないで欲しい、またはもう死亡事故は起こらないだろうという思いだった事もあり、この事故を知った時の衝撃は小林選手の事故の時の衝撃を遥かに上回るものとなってしまいました。
将来を期待されていた若手選手
中田選手は2013年デビューで113期に該当するのですが、2022年時点で既に7回の優勝経験があり、同期では勝率トップでした。
事故当時まだ29歳という事もあり、これからさらに経験を積んで活躍してくれる事を期待されている若手選手の一人だったのです。
事故そのものの衝撃ももちろん大きいですが、将来のスター候補を失ってしまった事は競艇界にとっても大きな痛手です。
来期はA1級昇格が確定だった中での事故
中田選手は常に安定した成績を残しており、2022年後期は7点台と優秀な成績となっていました。
2023年はA1級への昇格が確定しており、存命ならばそこから更に成績を伸ばしてSGレースを制する事も十分可能だったはずです。
しかし2022年11月6日、宮島競艇場でのレースにおいて悲しい事故が発生、その夢を実現する事はできなくなってしまいました。
中田選手は1号艇でのスタートでしたが、5号艇の間嶋仁志選手に先手を取られてしまい、中田選手は追いかける形となります。
そして3周目バックストレッチで競い合っていた際に中田選手の艇がバランスを崩してしまい3号艇と接触して転覆、そこへ後続の艇が中田選手を避けきれずに衝突、すぐに病院に運ばれましたが残念ながら中田選手は息を引き取ってしまいました。
他の艇と接触して転覆、その後後続の艇が衝突という流れは小林選手と全く同じです。
今回の事故に関しては未然に防ぐ事は難しかった
ただひとつ小林選手の事故と異なる点は、今回の事故は未然に防げるようなものではなかったという事でしょうか。
他艇と接触する前に中田選手の艇は大きくバランスを崩しており、本当に不慮の事故としか言いようがありません。
この事故を見た競艇ファン達も接触した2名の選手を責める声は一切ありませんでした。
むしろ逆に接触して中田選手が亡くなってしまった事で両選手のメンタル面を心配するファンがとても多かったです。
事故を受けてネットの反応は様々
この事故に対するネットの反応は実に様々でした。
亡くなってしまった両選手に哀悼の意を表明する声が最も多いなか、やはり競艇という競技の危険性に疑問を持つファンがかなり出てきています。
特に中田選手の事故直後は2度目の死亡事故が同じようなシチュエーションで発生してしまったという事もあり、ルール改正が必要なのではという意見が非常に多く見受けられました。
大幅なルール改定は難しい
競艇が危険である理由は非常に明確です。
レースという性質上、完全に死亡事故をゼロにする事はほぼ不可能ですが、限りなくゼロにする事は決して不可能ではありません。
大幅なルール改正をすれば、競艇をほぼ事故が起こらない競技にできるでしょう。
しかしほぼ事故が起こらない競艇というのはスピード感が全くなく、ターン中の緊迫した競り合いもなく、コース変更もしないといった非常に味気ないものとなるでしょう。
このような競艇にお金を賭けようと思うでしょうか。
現地に行ってレースを観たいという気になるでしょうか。
競艇の更なる発展を考えれば、現時点で大幅なルール改正をする事はないでしょう。
つまりこれからも2022年時点とほぼ同じくらいの確率で死亡事故は発生してしまう事になります。
全選手無事完走を最優先に応援しよう
舟券を購入したレースを観戦していて、軸にしていた選手が不甲斐ない走りをすると思わず「何やってんだ!」と罵声を浴びせてしまいたくなるでしょう。
しかし、その選手が無事完走してくれれば次のレースでもまた舟券を買って応援する事ができます。
小林晋選手と中田達也選手はもう2度とレースに出走する事はないため、もう2度と彼らの舟券を購入する事はできません。
自分が購入した舟券が的中し、配当金を手にする事ができた時の喜びと興奮はなにものにも変え難い事はよく分かりますが、まずは自分が応援している選手も含め、レースに出走する選手全員が何の事故もなく無事に完走する事を最優先に願いつつ、レースを見守るという気持ちを常に持っておきたいものです。
まとめ
競艇は全長約1メートル、重さ約70キロもあるボートに乗り、最高時速80キロというスピードを出して争う競技です。
更に水面という地上と比べると明らかに不安定な場所でレースが行われますし、ターンの際も現在は「全速ターン」といって、ほぼトップスピードでターンをする事が必須テクニックとなっています。
公営競技の中でも競艇はダントツに死亡事故が多く、2023年2月時点で33件の死亡事故が発生しています。
特に2022年は数十年ぶりに1年間で2件の死亡事故が発生、競艇ファンに大きな衝撃を与えました。
事故を受けての反応は様々で、なかにはルール改正が必要との声もあります。
しかし安全面を最優先した大幅なルール改正は競艇の魅力を全て失ってしまう事になるため、現時点で大々的にルールを改正する予定はありません。
私たち競艇ファンは、何よりもレースに出走する全選手が何の事故もなく全員完走する事を祈りつつレースを見守るようにしましょう。